人の感性や霊性の向上に特化した芸術的な手法が特徴のシュタイナー教育。この教育は1919年から行われていますが、ご存知でしたか?
日本ではまだ数は少ないですがシュタイナー教育を実施する学校ができています。今回はシュタイナー教育の中でも全身全霊で心身を一体化させていく「オイリュトミー」の魅力に迫ってみたいと思います。
オイリュトミーの起源:シュタイナー教育
オイリュトミー(Eurythmy)はシュタイナー教育の中で発生した教育方法の一つです。でも、オイリュトミーとか、シュタイナーとか言われても、よく分からないですよね。それでは最初にオイリュトミーの背景にある「シュタイナー教育」を見ていきましょう。
シュタイナーの考えと教育思想のみなもと
シュタイナー教育を提唱したルドルフ・シュタイナー(1861-1925)はオーストリア出身です。思想家としては神秘思想家の側面が強い人です。
神秘思想とは、説明の仕方はいろいろあるとは思いますが、要はこの世だけではない世界について思いを馳せることです。もっと簡単に言ってしまうと、あの世や霊界といった目に見えない世界のことを研究する思想といえます。
シュタイナー教育では、目に見えない世界からの恩寵を受け取る方法としての芸術を重視しているのが大きな特徴といえます。シュタイナーの思想は、パウル・クレーにも影響を与えたといわれていますが、あの音楽的な絵画は普通に生活しているだけでは生まれてこないだろうと思えますね。
パウル・クレーの作品は日本パウル・クレー協会HPのギャラリーでご覧になれます。
- 霊性への教育:魂と魂が宿る肉体の調和、宇宙の一部である認識
- 真の自己:それぞれに与えられた個性を引き出す
AI技術にも対抗!? 今こそ検討したいシュタイナー教育
2018年2月には「AI vs.教科書が読めない子供たち」という本が出版されました。AI技術に負けない教育が話題になっています。この本では現段階でAI技術にできないこととして、「高度な読解力や常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野」が挙げられています。具体的な職業としては、カウンセラー、教師などになります。
芸術性、感性、霊性といったものは、まさしくAI技術には真似できない分野だと思います。そういった意味でも、シュタイナー教育は、これからを期待できる教育方法かもしれませんね。
ただし、シュタイナー教育には受け入れにくい側面もあります。それはオーガニック食の実践や、おもちゃは手作りのものに限るといった細かい方針です。既成品や、便利な物に囲まれた私たちにとっては、億劫に感じてしまうこともあるかもしれませんね。
シュタイナー教育を背景に生まれた手作りのお人形、ウォルドルフ人形についてはこちらの記事をどうぞ。
また、下記の記事はデメリットにも注目していますので、参考にどうぞ。
オイリュトミーとは何か:ダンスと比較して
シュタイナー教育を語るのに欠かせないオイリュトミー。ギリシア語で「美しいリズム」を意味します。リズムに合わせて動くという点では、表面的にはダンスとよく似ていますが、何が違うのでしょうか。
オイリュトミーの思想
知り合いのお子さんが、学校の授業で創作ダンスがあるのだと言っていました。私の学生時代にはダンスなんてありませんでしたが、今は教育課程に創作ダンスなどが組まれているそうです。
文部科学省では、平成20年3月28日に中学校学習指導要領の改訂を告示し、新学習指導要領では中学校保健体育において、武道・ダンスを含めたすべての領域を必修とすることとしました。
(略)ダンスは、「創作ダンス」、「フォークダンス」、「現代的なリズムのダンス」で構成され、イメージをとらえた表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動で、仲間とともに感じを込めて踊ったり、イメージをとらえて自己を表現したりすることに楽しさや喜びを味わうことのできる運動です。
「体育といえば体力」と思っていましたが、今は「表現」も求められているのですね。ダンスの可能性が期待されています。教育との相性がいいみたいですね。学習指導要領の説明では「ダンス」は、「仲間との交流」に重点が置かれている運動のようです。
一方で、下記のシュタイナー学園VTRでは、オイリュトミー(2:41~)について「心と意思、そして考えをつなぐ芸術の一つ」と説明されています。
シュタイナー教育の理想を確認すると、オイリュトミーとダンスの違いが見えてくるのはないでしょうか。しつこいですが、もう一度おさらいしましょう。
- 霊性への教育:魂と魂が宿る肉体の調和、宇宙の一部である認識
- 真の自己:それぞれに与えられた個性を引き出す
こうしてみると、オイリュトミーは全体との一体感を味わう一方で、そういった相互世界の中にある「個」を意識する運動のようですね。心の動きがダンス以上に重視されているように思います。
また、言葉との関係も重要です。もともとのオイリュトミーでは母音と子音を分け、音ごとに動作するようです。「はじめに言葉ありき」という聖書の言葉は有名ですし、日本でも「言霊」と言います。言葉には特別な力があると昔から言われていますが、そういった力と自分の考えが動きを通して一体となる、という発想は独特ですよね。
最近では精神の健康という面で、医療分野でも注目されています。仕事に追われていて、焦っているときに深呼吸すると少し冷静になれることがあります。オイリュトミーには、日常生活で消耗してしまった生命力を取り戻すようなところがあるのかもしれませんね。
オイリュトミーの作法
思想において特徴があるということを、ダンスと比較して紹介しましたが、動きや衣装などにもある程度決まった形式をもっています。
正式なオイリュトミーでは、母音や子音には別の動きが割り当てられます。ただ、音そのものに厳格な「型」があるわけではなく、母音には胸から受け止めるような力の流れがあり、一方で子音には身体の背面を通っていく流れがあるとして、分けて考えて視覚化するそうです。
リズムとしては、クラシック音楽を使うことが多いようですが、音楽のみではなく詩などもオイリュトミーの対象になります。最近では無音のオイリュトミーも出てきていますよ。
服は、ひらひらした衣装を着ることが多いようです。オイリュトミーとは関係ありませんが、ドレスデザイナーの友人は、「その時の気分に合わせて色が変化するドレスを作りたい」と言っていました。ひらひらした衣装は、動きに合わせて様々な姿を見せてくれるので、感情などの表現にちょうど良いのかもしれません。
もっとも、オイリュトミーも認知されるにつれ、それぞれの国の音楽が使われたり、時代の流れでアレンジが加えられていたりするものが現われています。オイリュトミーの意味も少しずつ広くなっているといえます。
オイリュトミーについてさらに詳しく知りたい方は、下記の本もおススメです。
シュタイナー教育に欠かせないオイリュトミー
シュタイナー教育では、芸術性が重んじられています。シュタイナーが活躍したのはドイツ語圏だったので、「芸術」に相当する言葉はドイツ語の「kunst」(近い読みは「クンツトゥ」)だったのではないかと思います。「kunst」は、もともと技術を意味しましたが、時代の流れとともに現在の芸術という意味を含むようになりました。
芸術と聞くと、美術館に掛っている絵画などを思い浮かべますが「kunst」のもとの意味から考えると、手仕事(手芸)や木工も芸術と言えます。シュタイナー学校では、音楽、美術、技術などの想像力や創造力を鍛えてくれる科目が多く組まれています。絵画芸術においては、色のバランスを養う水彩のほかに、幾何学的な構成を学ぶフォルメン線描といった特殊な科目もあります。
オイリュトミーの芸術性
多くの芸術分野の授業の中でも、きわめて特殊な科目が「オイリュトミー」です。オイリュトミーは全世界のシュタイナー学校で、全学年の必修科目として教えられることになっています。「体育」でも「美術」でもなく、「オイリュトミー」という1つの科目として扱われています。「音楽は世界共通」と言いますが、「リズム」には、世界に通じる普遍的なパワーを宿しているのかもしれません。
また、「感性」や「霊性」といったものを、「体得する」という面においては、オイリュトミーはもっとも適しているのではないでしょうか。ちょっと宗教的なことを言うならば、オイリュトミーを行い、多くのものと調和している瞬間においては、その身そのままで違う世界に通じているのかもしれません。見えないものを視覚化するという部分に、シュタイナー教育としてのオイリュトミーの真骨頂を感じさせてくれます。
シュタイナーは生前、オイリュトミーを「魅せる」芸術として「神秘劇」というものも開催しています。東京賢治シュタイナー学校では、12年生の卒業にオイリュトミーの公演が例年開催されています。シュタイナー教育における、オイリュトミーの重要性がよくわかりますね。
また、外部向けのオイリュトミー講座を開講している学校もあります。入学した後にも気になることがあれば、参加してみるのもいいかもしれませんね。学校では、スモックのような衣装でオイリュトミーをするそうですが、なんとこれが親御さんの手作り。衣装には綿か、絹を使用します。シュタイナー学校では、手作りのものが多いですが、通わせるには親にも覚悟が必要ですね。
日本でシュタイナー教育を受けるには
私が学生時代の時を思い出すと、画一的な授業に退屈したこともあったなあ…と思うこともあります。また、高校では厳しい学校の方針についていけず、辞めていった子もいました。
最近になってシュタイナー教育が日本でも増えてきている背景には、いわゆる「普通」の学校では適応しにくい人もいるという事情があるのかもしれません。シュタイナー学校のウェブページを見てみると、同じ授業であっても、それぞれの個性を育むような内容になっているようです。
日本シュタイナー学校協会では、日本で7校を全日制シュタイナー学校として登録しています。いずれも歴史はまだ浅く、1990年代後半に開校の学校が2校あるほかは、すべて2000年以降の開校です。シュタイナー学校への入学には説明会の参加が必須です。小・中・高の一貫教育を行う学校が多く、募集人数も限られているので、検討されるなら早めの情報収集をおすすめします。
- 北海道シュタイナー学園 いずみの学校(北海道虻田郡)
- 東京賢治シュタイナー学校(東京都立川市)
- シュタイナー学園(神奈川県相模原市)
- 横浜シュタイナー学園(神奈川県横浜市)
- 愛知シュタイナー学園(愛知県日進市)
- 京田辺シュタイナー学校(京都府京田辺市)
- 福岡シュタイナー学園(福岡県福岡市)
北海道シュタイナー学園のことをもっと詳しくお知りになりたい方はこちらの記事をどうぞ。
まとめ
- 目に見えない世界からの恩寵を受ける活動として芸術を大切にしているシュタイナー教育
- オイリュトミーは魂・肉体・精神の心身一体化を目指したシュタイナー教育らしい運動
- 全世界のシュタイナー学校で全学年必修科目になっているオイリュトミー。これこそがシュタイナー教育の真髄
- 日本でオイリュトミーを学ぶことのできるシュタイナー学校は7校
詰め込み型の教育が見直される中で、シュタイナー教育は自由型の教育として対比されます。もちろん、知っていることは力になり、知識を集めるほど人の役に立てることでしょう。ただ、一方でシュタイナー教育が愛されるのは、大いなる世界があるという一体感からくる「他者を大切に思う心」が社会に必要とされているからかもしれません。
しかし、日本におけるシュタイナー学校の数は少なく、寮のない学校も多いようです。シュタイナー学校を考える場合は、まず最初に家族全員でしっかりと話し合ってみることが不可欠ですね。
シュタイナーだけではなく、もっと他の教育のことも知りたい方はこちらの記事をどうぞ。